「TOKYO Riverbed」小須田 翔 写真展

土手道を歩きながら、ふと開けた河川敷の隅に目をやると、草木が隆々と茂っている場所がある事に作者は気づいた。それは河畔(かはん)林(りん)と呼ばれる場所で、河川に沿うように繁茂した森林を指す。都市部では防災上の観点から定期的に伐採されることが基本であるが、自然保護の目的で残されていたり、水生生物や野鳥の生態系を保つために人工的に作られることもある。

闇に浸っている河畔林に作者は足を踏み入れる。
シルエットだけが残された木々の間から、色づいた不自然な夜空が見える。手の届く距離にある物体を認識できないのに、遠くの明かりがやけに光って見えることを不思議に感じる。どこか遠い場所に来てしまったようで、作者の恐怖心をより一層引き出すのであった。

子供の頃に見た木々の細部や、風に揺れる葉先も、暗やみの一部としてほとんどが隠されている。作者には捉えることができない秘密めいた日常が、違った形で送られているようだった。
私たちが眠るすぐそばで、私たちの意思とは関係なしに、植物たちは好き勝手に繁茂と枯渇を繰り返しているのであった。カラー約30点。

日本写真芸術専門学校に入学したきっかけを教えて下さい

–写真を勉強しようと思ったきっかけを教えてください–

高校時代からコンパクトカメラや一眼レフで友達とかを撮っていたのですが、本格的に写真を始めたのは大学に入ってからでした。
モノクロで写真を撮っていて、自分で撮ったものを現像しプリントをするのが面白かったのと、大学一年の終わりくらいに、軍艦島の事を知り、撮影に行った体験から写真をもっとやりたいなと思いました。
当時は世界遺産に指定されてなく、ツアーなども無かったので、行き方を調べるのが大変でしたね。
地元の漁師さんの釣り船に乗せてもらって行きました。
写真を撮る事は好きでしたけど、この軍艦島で最初の被写体に出会い、写真を撮りたい、残したいと思いました。

–なぜ日本写真芸術専門学校だったのですか?–

渋谷という場所柄ですね。
アクセスが良くて通いやすかったし、写真展をやっている所が多いからですね。
写真の勉強には写真展を見に行く事が大事だと思いました。

在学中はどのように学生生活を送っていましたか?

写真はとにかく撮っていました。
昔は何処かへ行って写真を撮るというスタイルでしたが、学生の頃は身近なものの中から写真になるものを選択して撮るという感じでした。
テーマは特に決めて撮っている訳ではなく、単純に面白いと思ったものを撮影していました。
ただ、今思うと、東京で生まれ育ったので、東京に関するものを撮っていた気がします。
東京って捉えるのが難しいと思うんですよ。東京にいる人のほとんどが東京で生まれ育ったという訳ではないじゃないですか。なので東京で生まれ育った自分が見た東京というのを表したかったのではないかなと思います。

お世話になった先生について教えてください。

築地先生の教えはすごく残っています。
具体的な言葉ではなくて、魂というか築地先生の言葉を感じ取るというか。
また、他の先生同士の考え方の違いがぶつかり合っているという環境がとても良かったですね。
皆さん生まれも写真のスタイルも全然違くて、一つの作品を見ても良い・悪いと真逆の意見が出てきたり。
「先生」といえども一人の人間であり、写真家なんだ。そういうものだというのを知る事が出来たのも良かったですね。

現在はどのような活動をされていらっしゃいますか?

–山ノ手写真製作所(写真作品の展示加工をする専門会社)で働きながら撮影されているんですよね。大変じゃないですか?–

そうですね。でも結局は働きながら撮影をしていかないと長くは続けられないと思います。それが撮影の仕事なのかそうでないのかというだけだと思います。
ただ、ありがたい事に私の仕事柄、お客様の写真を見させて頂く機会が多く、その時に作品のまとめ方や見せ方を勉強する事が出来るので、その経験が今回の様な賞を頂けた事に活かされています。
学生時代からコンテストにはけっこう応募していたのですが、長い事引っかからなかったんです。
けれど、今の仕事を始めて、お客様とコミュニケーションを取るようになってから、今回のような賞に選ばれるようになりました。

–働く環境で写真に関して学べる事が多いというのは理想的ですよね。–

ただ、撮影のリズムを作るのは大変ですね。
今回の作品は夜の写真なんですけれど、働きながらだと、夜の撮影はリズムが作れるんですね。昼間も撮影はするのですが、リズムは作り辛いです。
そういった仕事と撮影の兼合いは大変な所があります。
でも、仕事をしながら写真を撮れないのなら、仕事をしていなくても写真は撮れないと思います。
写真を撮る人だったら、日頃大変でも撮影に行くと思うんですよ。
撮影の場所は限られてしまうかもしれないけれど、それでも身近な所に新しい発見はあると思います。

作品に関して教えてください。

身近なものの中で見た事もないような景色があるというのを表したかったんです。
東京は川に囲まれていて、その側には手付かずの自然のような場所が残っている。そこではホームレスが住んでいたり、犯罪が起こる事もある。
そういう場所に囲まれて東京が存在していて、そこに住んでいる僕たちはバラエティ番組を見ていたり、すやすやと寝ている。
僕たちのすぐ側ではこんな世界があるというのが面白くて、その世界から東京を望むという社会的なテーマがあります。
ただ、そういうテーマは撮影していくうちに見えてきたものです。
もしかしたら最初からそのテーマは持っていたのかもしれないですけれど、中々言葉にはならなかったです。
自分が撮っていて面白いと思ったものを求めていった結果ですね。

–撮影を始めたのはいつ頃からですか–

2012年頃からです。3年くらいかかりました。
でも、3年かけたおかげで、バリエーションとかが増えて、ただのアイデア作品ではなくてもうちょっと厚みのある作品に出来たと思います。

これからの活動と目標について教えてください。

今回の作品はこれで一旦終わりです。
今後は仕事に繋がる様な写真を撮りたいなって思います。
雑誌で連載を貰えるような作品を自分の許せる範囲内で撮りたいなと思っています。
やっぱり自分が面白くないなと思う写真は撮りたくはないですね。

卒業してから感じた事や皆さんへのメッセージがあれば教えてください。

学生の時の時間ってすごく大切だったなという事です。
学生の時ほどヒマな時はないなって。働かないとわかんなかったかなって。
学生にとって大切な事って他にもあるから何とも言えないですけれど、そういう限られた時間って本当に短いんだなって事をわかっていれば良かったかなって思います。
単純に平日仕事をしていると、何処か雑誌とかに作品を持ち込もうとしても、仕事を休まなくちゃいけないので、実際に仕事に繋がるような持ち込みは学生の内からやった方が良いんじゃないかなと思いました。
学校の名前も使えるんだから、もっと自分の立場を利用して外に向かって写真を見てもらいに行くと良いんじゃないかなと。そうしていれば良かったなと思いました。

–小須田さんありがとうございました。これからの作品も応援しています!–
小須田さんの作品は、http://toiii.org/でご覧頂けます。

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