「心の温度」山下 隆博

前回の写真展でお話をお伺いしたのは2010年6月でした。今日迄、様々な作品を発表されていますね。

そうですね。その間に3.11の東日本大震災もあり、原発問題を意識し、東京のデモ活動も撮影しています。 一昨年はインドの一番南に位置する原発施設も訪れました。今、別の写真展会場でグループ展にも参加しています。

今回のテーマはいつ位から始めたものですか?

卒業して、1年経たくらいから北海道の地元を撮影しています。地元には泊原発があるのですが、撮影を進めていくうちに、樋口先生を意識するようになりました。在学中から樋口先生のことは勿論知っていましたが、最初の印象は、「すごくパワフルで、元気の良いおじいちゃん」くらいでしたね。(笑) でも、こうやって現に3.11などが起こると、原発問題はまだまだ続くということ。ですね。インターネットで先生の講演会などを拝見すると、活躍が嬉しい反面、現実の悲しみもありますよね。 木田金次郎さんは地元に美術館があって、昔から足を運んでいました。有島武郎さんの「生まれいずる悩み」のモデルになった人。で、油絵の作品が多いのですが、自然の過酷さを感じました。

前回はインドをテーマに取材されていましたが、今回は日本。しかも、生まれ故郷なのですね。

前回もお話させて頂いたと思うのですが、インドには5つのテーマが自分にはあって、前回のSuicide Spiralはその1つでした。 今後は1984年に起こった《ボパール化学工場事故》やインド最南端にある原発《クーダンクラム》をテーマに取材を続けて行こうかと、考えています。全ての撮影が終わったら写真集にして一つの区切りをつけたいですね。また、生まれ故郷である《北海道》も撮りたいです。アイヌ民族であったり、夕張市の問題であったりと。きれいな自然だけではなく、色々な視点から撮りたいですね。

心の温度とは、少し抽象的な気がしますが。このタイトルをつけたきっかけを教えてください。

そうですね。原発に対してみなさん色々な考えがあるとは思うのですが、東京などの都市部に住む人と原発地域に住む人(原発がある。ことに受け入れている)など、隔たりを感じます。

-でも、原発の写真は1枚のみですよね。- 直接、原発関連の写真を撮り観て頂くよりも、違う写真で感じて頂けたらと思いました。「あの」ガラスに映った(曇っている)ことで、隔たりも表現しています。

写真展を開催し、観に来られた方々の感想などは如何でしょうか?(前回はあまりメッセージ性を出さない。ようなニュアンスだったので。)

今回もそうですね。東京都市部と原発地域。2つの視点があって、考えを提示しているだけです。都市部に住んでいても、原発地域に住んでいても、何も変わりません。

-少し気になりましたが、キャプションが一番最後なのは?こだわりがありますか- 特にはありません。私の考え方ですが、キャプションを読んで順番に見せる事と言うのは、作家のエゴだと思うのです。私が他の方の写真展を観に行くときは、あえてキャプションを読まずに観て、キャプションを最後に観て、逆から作品を観て行きます。そうすると2度楽しめますよね。年間300回の展示を観に行くかな。

今後の活動など、教えてください。

8月には大阪ニコンサロン。9月にはフランス・パリでグループ展を予定しています。グループ展には卒業生の木村 肇さんも参加される予定なんですよ。その後も、まだ確定していないのですが、展示のオファーを頂いています。

学生へ向けてのメッセージ

苦しい事もあるだろうけど、継続は力なり。つらい事もあって、良い事もある。頑張って下さい。

山下 隆博写真展
「心の温度」
2014/5/20 (火) ~5/26 (月)
Nikon Salon juna21

内容:北海道後志(しりべし)地方。ここには原子力発電施設を3基抱える泊発電所がある。そしてここは、作者の生まれ故郷でもある。この場所で起きていることは別の場所で起きていることとさして変わらないだろうと思うが、原発のある場所として認識されたとき、人々は様々なことを思うことだろう。2011年3月以降、人々の原発に対する認識は大きく変わったはずだ。反対や賛成ということだけでなく、意識していなかった人たちに、意識を向けさせたということでは福島第一原発事故は大きな切っ掛けとなったことは明白である。しかし、作者は自分が以前から抱いていた立地地域に住んでいる人たちの考えと、それ以外の、とくに都市部に住んでいる人たちの間にある温度差のようなものは、一層強くなってきたように思うという。カラー約30点。

このページを閉じる