「タイトル: 豆のスープ/カンボジア3.0」末永旭 写真展

専門学校の入学相談スタッフをやっていると、社会人の入学希望者からこんな声を聞く。

「”好きなことは趣味でいい”と割り切って、今の仕事に就いたんですけど、やっぱり諦められなくて」

 

好きなことを趣味に留めるか、プロを目指すか。

何かにのめり込んだことのある人は、1度はこの悩みに直面するだろう。

今回は、社会人を経験した後、写真の道に進むことを決めた黒田渉さんに、お話を伺った。

2018年12月。新宿・オリンパスギャラリー東京にて、黒田さんの作品展「RAVEN BLACK」が開催された。

“都会を飛び交う黒い影、カラスの姿に目を奪われる。

カラスには昔から興味があった。単純に黒い鳥という風貌には惹かれるものがあるし、飛行している姿にも独特な魅力がある動物だ。私を含め日本人にとって身近にいてあたりまえの存在であるカラスだが、あらためてその存在に注目し、写真に表していくことで新たな発見があるように思えた。

カラスと向き合って見えてきたものは、都会と彼らとの関係性だった。高層ビルが乱立するこの都会において、カラスという存在が妙に溶けこんでいることが不思議に思えた。都会とカラス、どちらも全く別の存在であるはずのものが、写真の上で見るとお互いが近しいものに思えた。この感覚は都会の細部にまで至る。

都会という環境は、異物のようなものであり、ノイズ(騒音)のようなものである。カラスにもこのような要素を感じられるとき、モノを捉えるということの曖昧さに気付く。

私にとっての都会とカラス。この展示はその在り方を形にしたものである。”

(写真展案内より引用)

天井から吊るされたカラスの大判写真は、都市部を飛び交う姿がそのまま再現されたよう。

 

都会のテクスチャに文字を重ねたタイトルや、天井から吊るされた大判写真。

今回が初めての展示とのことだが、どのように構想を決めたのだろう。

 

「半年くらい前に展示をやることが決まりました。普段から作品づくりや編集をする中で、”こう見せたい”というのは意識していて。

 

また、せっかく広い空間で展示できるから、自分のやりたいことをやり切りたい、無難に終わらせたくないという気持ちはありました。普段やっていることの延長がこの展示なのかなという気がします。

 

具体的に動き出したのは展示の2、3ヵ月前です。実際に手を動かしてみたり、お世話になった先生に相談したり」

 

―なぜカラスをテーマに?

 

「特にこれといったきっかけは無いのですが、『何かあるな』と思い、ひたすら撮りはじめたのが最初です。専門学校に入学してすぐなので、2年半くらい前ですね。

 

撮って、人に見せて…をくり返すうちに、今の作品にたどり着きました。考えながら撮るというよりは、条件反射みたいにカラスを撮って、出来た写真を見て考えが浮かんでくる感じです」

 

―イントロダクションや展示を見ていると、”都会”も1つのテーマのように感じます。

 

「そうですね。生まれが田舎なので、もともと都会に対して憧れや面白さを感じていました。

映画やアニメ、ゲームの舞台って都会が多いですよね。そういう記憶や想像の中の都会を、現実の写真を通して、見た人に想起してもらえたら面白いんじゃないかなって。

写真を見た人に何か考えてもらえたら嬉しいですね」

ギャラリーに置かれた作品集には、都会のテクスチャの写真がまとめられていた。

 

「別に、カラスや都会がものすごく好きってわけじゃないんです。”モノの見方を考える”ということを、カラスと都会の写真を通して伝えたい。写真を通して言いたいことを言ってる、みたいな感覚です」

 

「ほんとに、やりたいことをやってるだけなんです」

 

そう語る黒田さん。

一度は”写真は趣味でいい”と割り切り、一般企業に就職したのだとか。その後、写真の道へ進むことを決意し、2016年に日本写真芸術専門の夜間部へ入学。卒業後は、母校の教務課で勤務しながら作家としても活動している。

 

「父親がカメラマンだったので、子供のころから写真は身近なものでした。高校卒業後、写真の道には進まず、就職しながら趣味で写真を続けようと思ったんです。

 

でも、やっぱり納得できませんでした。写真を撮る時間も限られるし、自分が写真を撮る意味ってなんだろうと分からなくなってきてしまって。ちゃんと時間とお金を惜しまず写真と向き合いたいなと思い、きちんと勉強しようと決めました」

 

―専門学校に進学を決めた理由は何ですか

「写真を教えてくれるプロときちんと付き合えるかどうかが一番重要でした。入学後は、自分がやるべきことをちゃんとやるだけだな、と思っていて。あとは金銭面を考えて、最終的に専門学校の夜間部を選びました」

 

―独学と違うところは
「独学ももちろん大事だと思います。でも、独りよがりになってしまうのが怖かった。

 

社会の中に写真がある以上、周りを知らなければいけないなと僕は思います。写真の学校に通えば色んな意見が聞けるかなと。

 

実際に、多くのプロから意見を聞けるのは勉強になりました。特にマグナムワークショップでは、ふだん自分が接することのない海外のプロからアドバイスがもらえ、今の作品の方向性が定まったという意味でも特別でした。

在学時のマグナムワークショップでの様子

作品のまとまりや方向性が決まるきっかけとなった1枚。ポートフォリオの1ページ目にも、この写真を使っているとのこと。


やりたいことをやってるだけ。

シンプルな言葉で表現する黒田さんだが、やりたいことをやるためにはどうすれば良いかを冷静に考え、堅実に行動しているように感じた。

 

―展示最終日を迎えて、いかがですか。


「1週間、あっという間でした。初めての個展でしたが、実際やってみたら短いですね。もうちょっとやりたい、もうちょっとこの空間にいたいなと思います」

このページを閉じる