2019年3月下旬、銀座ニコンサロンで本校在校生 範嘉樹(ハンカキ)さんの写真展「繁華劇場」が開催された。
ギャラリーに入ると、スポットライトに照らされた、まるで映画のワンシーンのような作品が並ぶ。
「ファインダーを覗くと、映画のワンシーンを観ている気持ちになるんです」と語る範さん。銀座で"面白い"と感じたシーンを切り取ったという。
"銀座の「座」、日本の意味はお金を作る「場所」と「劇場」。
今、銀座は、まさに劇場だと思う。
毎日演目がある。違う時間に違う人が同じ演目をする。
この演目の名前は「銀座」。
皆、銀座へ来たら、この「劇場」に参加する。
私はある日、ここに来た。そしてこの「劇場」の写真家となり、この日の演目を記録する。
「銀座」は毎日上演している。
その24時間の記録。"
(ステートメントから引用)
信号待ちをする人や、工事現場で作業する人。作品の1つ1つがストーリーを感じさせる。
銀座劇場の主人公をより引き立たたせるため、あえて背景を暗めにして、人物にフォーカスが当たるようにしているそうだ。
範さんは中国出身の留学生。母国の美大でグラフィックデザインを学んだ後、日本写真芸術専門学校に入学した。
「入学する前は、独学で写真を撮っていました。ドキュメンタリー写真を8年間撮り続けています」
独学でやっていたとはいえ、日本へ来て、一から写真を勉強することに不安はなかったのだろうか?
ところが本人は「そんなに大変だとは思いませんでした」とあっけらかんと答える。「でも、入学する前は本当に下手くそだったんですよ…」とはにかみながら言葉を続けた。
日本写真芸術専門学校に入学して、機材の取り扱い方やスタジオでの撮影方法を習得できたという。
「銀座でのドキュメンタリー撮影は、24時間通して1日で撮ったわけじゃないんです。
例えば0時〜6時の日、11時〜17時までの日という風に、1日6時間と決めて、何日もかけて撮影をしました」
取材当時はまだ1年生ながら、実は範さんが写真展を開くのは2回目だ。
前回は、湘南の海辺の植物を撮影した作品「本草」を展示している。
(前回のインタビューはこちら)
https://npi.ac.jp/extra/interview51.html
「本草では、静かさや不安を撮りたかった。画面の美しさや色合いを考える時に、グラフィックデザインの知識が役に立ちました」
たしかに、彼の作品は絵のように見えるものもある。
グラフィックのような美しさの「本草」、そして銀座の人々のドキュメンタリーを撮った「繁華劇場」に続き、今後はどのような作品をつくっていくのだろう。
「今は、フォトアートの作品を作っています。魚の体の中に羽毛を入れて、周りに花を散らして…」
すごく気になる。こんなことを聞くのは野暮かなと思いながらも、何を表現した作品なのか聞いてみた。
すると「それは、次回の展示までのお楽しみです」とのこと。
なるほど、宣伝上手だ…。
次回は10月頃、原宿で個展を開く予定だそう。
「2021年までには、広告事務所を立ち上げたいです。1年間くらい旅行にも行きたいですね。撮影のためじゃなくて、休暇で。アイスランドに行ってみたいです」
言いながら、画像検索で氷の洞窟を見せてくれた。
まるでフィクションのような氷の洞窟。撮影のために行くわけじゃないと言いつつも、何時間も夢中でシャッターを切る範さんの姿が目に浮かんだ。