「タイトル: 豆のスープ/カンボジア3.0」末永旭 写真展

同じ1人の人間でも、役割や場面が変われば、態度や行動も変わる。様々な顔を持っている。

友達でさえ、恋人の前では全く違う顔を見せているかもしれない。私は友達としてのあの子の顔しか知らないし、あの子の恋人も、きっと私が知っているあの子の顔を知らない。

 

見えていないだけで、確かに「あの子の違う顔」は存在する。

 

「変わりゆく都市」をテーマにした写真展

5月下旬、清澄白河にあるTAP Galleryにて藤林彩名さんの写真展「Post urban」が開催された。

 

清澄白河駅を降り、閑静な住宅街の中を進むと、ビルの1階にあるTAP Galleryが見えてくる。


夜の渋谷や原宿、そして池袋といった都市を切り取った作品が並ぶ。

“日が陰りはじめ、次第に増えゆく光は互いを照らす。

都市が光を帯び、夜に浮かび上がる。

まだ明るいうちには隠れていた断片の集積だ。

 

私たちはいつも変化のさなかにいる。

波のように伝わっていき、波長や振幅は違っても途切れることなく続

いていく。それはこれまでの都市の一部を踏襲しながら、新しい都市

の形へと少しづつ姿を変えているようだった。

これから大きな波が押し寄せてくる。

まさに都市の後の都市“Post urban”がやってくるのだと思った。”

(ステートメントより引用)

(c)ayana fujibayashi

(c)ayana fujibayashi

 

筆者と藤林さんは、同じ日本写真芸術専門学校に勤務している。

彼女は元々、日本写真芸術専門学校の卒業生で、現在は母校に勤務しながら作品作りに取り組んでいる。

 

展示が決まってからの2ヵ月間、仕事終わりに撮影をしながらテーマを整理していったそうだ。

 

「今回撮影する中で、変わっていく都市に対する皮肉っぽいネガティブな作品もあったんですけど、変わっていくことの期待や、変わらないもの・大切にしたいものを写した作品をセレクトしました」

どれも思い入れのある1枚だという。

スナップ写真では「瞬間を切り取ろう」と意識することが多いが、彼女の撮るスナップ写真はじっくり時間をかけて、レンズも標準と望遠を用意して撮影する。

 

今回が初の展示だと言う藤林さん。「自分の伝えたいことがちゃんと伝わっているか不安」だそう。作品展を行うくらいの写真家さんだから、てっきり自信を持ってやっているのかと思っていたので、意外だった。

 

今回のテーマに至るまで

今回は「都市」がテーマだが、日本写真芸術専門学校の学生時代は「廃墟」をテーマに撮影していた。

 

藤林さんは2014年、日本写真芸術専門学校に入学。「色々なものを見たい」という思いから、3年制写真科フォトフィールドワークゼミを選んだという。

 

フォトフィールドワークゼミでは、3年生になるとアジア各国を巡り撮影する「海外フィールドワーク」が始まる。同級生が2年生の夏までにはほとんど撮影テーマを決める中、藤林さんはなかなかテーマが決まらず悩んでいた。

 

「1年生の頃は家族を撮っていたんです」

 

家族を撮った作品は、学校内の全学科・全学年が参加する「ポートフォリオコンペ」に提出したという。実は藤林さん、1年生にしてポートフォリオコンペでグランプリを受賞している。

(c)ayana fujibayashi

(c)ayana fujibayashi

 

ポートレート(人物写真)が得意なのかと思いきや、「人物写真は苦手で…」と言う。

 

「撮りたいものを考えた時、たくさん撮って後からテーマをまとめるスナップ写真がいいなと思いました。私は言葉でうまく表現できるタイプじゃないので、言葉で先にテーマを決めるよりは、スナップ写真が向いているなと。先生と相談しても、”藤林はスナップ写真がいいよ”って。

でもせっかく海外フィールドワークに行くなら、あえて苦手なものに挑戦しようと思い、大きなテーマを決めることにしました。

 

色々悩んで、テーマもコロコロ変えて…2年の冬にやっと決めました。当時のゼミの先生に、1限目の朝早くから”先生!私、廃墟を撮ります!”って宣言したなぁ(笑)」

(c)ayana fujibayashi

▲学生時代の藤林さん

 

フィールドワークで撮影した廃墟の写真は、藤林さんの公式サイトのポートフォリオ「Abandonedscape」で見ることができます。

 

「廃墟も今回の作品も、全然別の物のようだけど、”人がいる気配”を撮っていることは共通していると思います。

 

さらに言うと、家族を撮った作品も含めて実は全部の作品が繋がってるなと感じています。家族は一番プライベートなところ・都市は近いところ・海外の廃墟は一番遠いところ…という風に、全部自分が起点になってる。

色んな写真家の方がよく言う”撮る対象は変わっても、根底は変わらない”という言葉を実感しました

 

まだまだテーマを探求したい。そのためにも、また個展を開きたいという藤林さん。

 

「展示をして、色んな人に見てもらって意見をもらいながら、ちょっとずつ撮りたいものが整理されてきた感じがします。だから今は、とにかくたくさん撮りたい!

いつも”とにかく撮らなきゃ”と思っているんですけど、展示をしたら更にその思いが強くなりました」

藤林さんは10代で写真の道に進むことを決め、卒業から2年で展示を実現させた。

そんな経歴や仕事中の明るい姿から、私は今まで彼女を、目標に向かって順風満帆に自信を持って突き進む人だと思っていた。

けれど展示を見てお話を伺うと、言葉の端々に不安が見えたり、そうかと思えばカメラを構えて夜の都会と粘り強く向き合う姿が浮かんだり、作家としての等身大の彼女が見えてきた。

(c)ayana fujibayashi

▲歩道橋に浮かび上がる人影。グラフィカルな1枚を狙い、何人もの通行人の影を追ったという

 

作品を通してその人が見る世界、そして知らない一面が見えてくる。

知るはずのなかった「藤林さんの違う顔」を垣間見た気がしたし、彼女にとってはそれが「いつもの顔」なのだと気がついた。

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