その他

シャッター音の心理学 ~写真に写る「見えないもの」~

2026/1/8

(2025年12月21日(日)オープンキャンパス体験授業より、覚え書き)

プロのフォトグラファーは、ふつうは何台かのカメラを持っていて、状況によって使い分けています。

多くの場合、それはカメラの「機能」による使い分けです。

たとえば絵を描くとき、荒々しいタッチで描くのか、静謐なタッチで描くのかによって適した筆や絵具が変わってくるのと同じです。それぞれのカメラの特性を理解し、撮りたい対象やイメージに応じて、カメラの本体やレンズを自在に使い分けるのは、プロに求められるスキルのひとつです。

しかしフォトグラファーの倭田宏樹先生(日本写真芸術専門学校講師)は、それ以外の意図でカメラを使い分けることもあると教えてくれました。

「シャッター音」です。

シャッター音というものは、一般的には、撮影においては「サブ」の要素にすぎないと考えられています。いいシャッター音だと気持ちいいとか、このシャッター音が好きだといった撮り手の気分はあるにせよ、作品の質には影響を与えない、おまけ的な要素だと。

しかし人物撮影においては、このシャッター音はモデルに対してけっこう大きな心理的影響を与えるのです。

たとえばファッションモデルは、激しいシャッター音が鳴ることによって「いままさに自分が撮られている」と実感でき、気分が乗りやすくなるのだそうです。またプロのモデルさんは、一枚撮られたら次のポーズ、もう一枚撮られたら次のポーズ、という具合にシャッターに合わせてポーズを変えていくため、シャッター音がはっきり聴こえることでポージングに「リズム」が生まれやすくもなります。

テレビやネットの動画などで、「パシャッ!ピピッ」「パシャッ!ピピッ」と大げさなほどのシャッター音が鳴り響く撮影現場の様子を見たことがあるでしょう。あの音は決して単なる飾りではなく、モデルさんとフォトグラファーとの、音を介したコミュニケーションの一環でもあるのです。

アーティストやタレントによっては、自分が最も映える「決めポーズ」を持っており、そのポーズをシャッタータイミングに合わせてバッチリ決めたい人もいます。そういう自己プロデュース意欲の高い人を撮るときも、なるべくシャッター音の大きな機材を選ぶ(またはシャッター音を大きく設定する)ことで、「ちゃんと撮ってもらえている」という安心感を与えることができます。

逆に、シャッター音が小さいほうがいい場合もあります。撮影に慣れていない人や、撮られるのが苦手な人を撮るときです。人前に出る機会が少ない一般の人はもちろん、芸能人やスポーツ選手などの中にも、撮られることに苦手意識をもつ人はいるかもしれません。

こういう場合は、なるべくシャッター音を小さくするか無音にし、撮られているのかどうかわからない状態にしたうえで、会話を交わす中で自然な表情を狙うのが王道戦略です。

写真はまさしく「真を写す」ことなので、その瞬間、そこに存在するものすべてが作品に影響を与えます。たかがシャッター音という、物理的には写真に写るはずのない要素も、ある意味では「写真に写る」のです。単に機材や構図などの知識を深めるだけでなく、撮影現場の整え方、撮影に至るまでのコンディションのつくり方を含めたフレーム外のところまでこだわって初めて、プロレベルの画づくりと言えるのかもしれません。

監修:倭田宏樹(フォトグラファー、日本写真芸術専門学校講師)
1982年生まれ。代官山スタジオを経て、三宅勝士氏、玉川竜氏に師事。2008年よりフォトグラファーとして独立。2009年TRON management所属。ファッション、音楽、映画や舞台のメインビジュアルなどを多数手掛ける。
公式HP

オープンキャンパスをさがす

Webパンフを見る

資料請求