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【読書案内】写真週刊誌を生んだ “ライカ革命” – 『写真の読み方』名取洋之助著

2026/1/22

写真を学ぶ皆さんに向けた読書案内。今回は名取洋之助氏の『写真の読み方』(岩波新書)を紹介します。

名取洋之助氏(1910~1962)は、雑誌などの報道写真を中心に、編集者・アートディレクターとしても活躍した人物で、いまなお写真作家の登竜門「名取洋之助賞」にも冠されるなど、写真史・美術史にその名を刻まれています。

『写真の読み方』は、そんな名取氏が写真という媒体の特性や本質、そして歴史について語った著書です。あくまで一般向けにわかりやすい言葉でありながらも、その内容は写真というものの本質を鋭くとらえています。

今回は本書の中から、特に興味深かったトピックをピックアップします。

文/日本写真芸術専門学校スタッフ・佐藤舜

ライカは何がすごかったのか? – “簡単さ” という革命

本書ではまず、写真の最も基本的な機能が「記録」であると定義されます。そのうえで、「写真」というテクノロジーの発明当初から歴史を概観し、そもそも写真はどのような目的に使われてきたのか、名取氏は解説します。

その発明当初のカメラというのは、

①馬車がないと運べないくらい巨大である
➁じっと動かない対象・明るい場所など、限られたものしか撮影できない
③専門知識を持っていないときれいに写せない

といった数々の不便さがあったため、肖像写真や、特別な場面・場所の撮影(たとえばまだ未開拓だったアメリカ大陸など)といった限られた用途にしか使えませんでした。

その状況を覆す発明が、1925年に訪れます。「ライカ」です。

その当時 “画期的なカメラ” として発売されセンセーションを巻き起こしたライカは、それまでのカメラとは比べ物にならない便利なものでした。具体的には、次のような特徴がありました。

①ポケットに入るくらい小型
➁シャッターを押すだけで何でも撮れる
③暗い場所でも、フラッシュを焚くことで撮影できる
④誰でも簡単に・きれいに写せる

つまり、「いつでも」「どこでも」「何でも」「誰でも」撮れる、いまわたしたちがイメージするようなカメラの走りがライカだったのです。

※「あー、もしかしてライカって『Light Camera』(手軽なカメラ)の略なのか?」と思って調べたら全然違いました。普通に、エルンスト・ライツさんが創業した会社のカメラ、というのが由来だそうです。

このライカ=いつでも・どこでも・何でも・誰でも撮れるカメラの発明によって、もうひとつ、いまや私たちにとって当たり前のものが誕生しました。

「写真週刊誌」です。

ライカが可能にした「写真週刊誌」という文化

ライカの発明以前、ニュースを伝える手段は「言葉」がメインでした。先述のようにカメラは巨大で、撮れる対象も限られていたため、「事件現場にパパッと行ってパシャッと撮る」ということが難しかったのです。たとえば火事の様子を伝えるには、インタビュー取材などで当時の様子を聞き言葉でまとめる、というやり方が基本でした。

しかしライカの登場により、その「事件現場にパパッと行ってパシャッと撮る」ということが可能になりました。しかも専門知識がなくても「誰でも」シャッターを押すだけで最低限は撮れるので、取材へ行くカメラマンの人員も大幅に増やすことができました。

こうしてニュースなどを写真メインで伝える「写真週刊誌」、いまで言う週刊文春のような雑誌のスタイルが可能になりました。

いまとなっては数多くのメーカーから手持ちカメラが販売されていますが、「写真週刊誌」という身近な文化成立の影にはライカという革命があったのです(言葉メインの週刊誌はそれ以前にもありましたが)。

ちなみにこの「(言葉ではなく)写真中心の週刊誌」というスタイルを初めて本格的に確立したのが、アメリカの『ライフ』という雑誌でした(名取さんも『ライフ』のフォトグラファーとして契約していた経緯があります)。

「新聞写真」と「報道写真(週刊誌写真)」の違いとは? 

毎日出る新聞の写真も、週に一度出る週刊誌の写真も、「ニュースを伝える写真」という意味では同じ役割のものです。

しかし両者には明確な違いがあります。それを名取氏は、「クライマックス」「アンチクライマックス」という言葉で説明しています。新聞などの日刊紙で主に使われるのがクライマックス写真、週刊誌で主に使われるのがアンチクライマックス写真です。

・クライマックス写真
 ……事件が起きた「まさにそのとき」を撮った写真。たとえば野球でホームランを打った瞬間の大谷翔平の姿など。速報性がある日刊紙で主に使われる。
・アンチクライマックス写真
 ……事件が起きた「あと」の様子を撮った写真。たとえばホームランを打ってベンチに戻った後の大谷翔平の表情など。速報を出せない週刊誌で主に使われる。

たとえばホームランを打った瞬間のようなクライマックス写真は、速報としてすぐにニュースを出せる新聞の場合には新鮮な情報なので、ヒキ(高いニュースバリュー)があります。

しかし週刊誌の場合には、ニュースを出すのはそこから数日後になります。そのころにはクライマックス写真は出回ってしまっていて、新鮮さがありません。だから週刊誌では、差別化のために、クライマックスのその後を写すのです。たとえば選手のその後の気持ちや状況などを後追いするような、アンチクライマックスの写真や記事が使われることが多くなります。

ネットニュースを含め、毎日当たり前のように目にするニュース写真。その背景には、「手持ちカメラの普及」というテクノロジーの側面が大きく関わっていたり、そして日刊か・週刊かという媒体の違いによって撮るべき写真の質が変わってきたりと、パッと見にはわからない奥深い世界があるのです。

***

今回は『写真の読み方』からライカと週刊誌写真に関わる部分をピックアップしましたが、これは本書のほんの一部にすぎません。

写真文化への関心が膨らんだ方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。

(参考文献)
名取洋之助, 『写真の読み方』, 岩波書店, 1963.

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