
展示全景。床一面に広がる写真と、キャプションが書かれたA4用紙
床に無数の写真が散らばっている。壁に整然と並ぶのではなく、まるで誰かが引き出しをひっくり返したように、バラバラと広がった光景。それが中村友美さんの卒業制作《捨てられない思い出》だ。生まれ育ったおばあちゃんの家、そこに染み付いた記憶、そして「大人になっても捨てられない」感情——中村さんは、そのすべてを床の上に広げてみせた。
語り|総合写真研究ゼミ中村 友美
聞き手|日本写真芸術専門学校・広報 佐藤
2026.3.12 上野・東京都美術館にて
「引き出しから出しては、また捨てられない」──展示の構成について
── すごくユニークな展示の仕方ですよね。床に写真を散らばせようと思ったのはなぜですか?
私はおばあちゃんの家に生まれた時から中学2年生まで住んでいたんですが、その後引っ越して。それからいとこが結婚して子どもが生まれて、その子におばあちゃんを奪われちゃった感じがしてしまって。20歳にもなって子どもに嫉妬するなんて変かなと思うんですけど、その気持ちが「捨てられない思い出」という感じで……。 おばあちゃんの家にいた頃の記憶の名残が強すぎて、頭や心の中で「引き出しから出しては捨て、でもまた拾って、やっぱり捨てる」という葛藤を表現するために、こういう展示構成にしました。捨てたい気持ちもありつつ、でもやっぱり捨てられない——大人になりきれない部分の葛藤ですね。

── その「整理している途中」感が、すごく伝わってきました。
部屋の中を整理していて「これ捨てようかな、どうしようかな」という感じですよね。床にあることで、壁に飾った時のような立派さではなく、哀愁のようなものが出てくると思っていて。展示の仕方まで作品の一部にしたかったんです。
── 作品を作ろうと思った動機は、そのいとこのお子さんが生まれたことだったんですね。
それが一番大きいです。私は一人っ子だったので、よくある「弟が生まれて嫉妬する」みたいな感覚が、20年経った今になって来ている感じです。
── お祖母さんの家では、いとこの子どもも一緒に暮らしているんですか?
3世帯がくっついているような敷地なんです。大きな敷地の中に家が3つくらいある感じで、おばあちゃんの家もそこにあって。私は中学の時に一度アパートに引っ越して、また戻ってきて、今は両親とおじいさんと暮らしています。おばあちゃんとは別居ですが、日常的に会える距離だからこそ——そこに小さい子どもというライバルが生まれて、不安になっているという感じです。

壁に掲示された作品ステートメント。「変わってほしくないと願う自分と、変わっていく現実を受け止めようとする自分との間で、いつも葛藤して苦しくなる」
ピノの顔、VHSの闇──記憶に刻まれた一枚
── 特に「これが好き」という強烈な思い出のある写真はありますか?
ピノにピックが刺さっているやつですね。よく見ると、チョコの表面にニコちゃんマークが描いてあるんですよ。子どもの頃にピノをよく食べていて、チョコの膜に顔を描くのが楽しくて。それを再現して撮りました。
── VHSのビデオデッキの写真も印象的でした。
機械の中にビデオが吸い込まれていくのが怖かった記憶があるんです。子どもの頃に「101匹わんちゃん」をよく見ていたんですが、カセットをガチャッと入れる瞬間、吸い込まれて本当に戻ってくるのかなと不安で。真っ暗な空間に入っていって、本当に出てくるのかなという感覚が、強く記憶に残っています。



感覚で作った作品──ひらめきと葛藤の制作過程
── この展示形式はどうやって思いついたんですか?
ひらめきという感じです。ずっとどうしようかなと悩んでいて、本当はこの作品じゃなくて別のテーマの方がいいかなとも考えていたんですが、時間もないし……。結果的に「床に散らばす」というアイデアが出てきて、感覚で作った作品でした。「こう表現したい」という気持ちが先にあって、じゃあこうしよう、と。必然的に出てきた表現かもしれないです。
── 先生からのアドバイスは?
制作がギリギリになりすぎて全然相談できなくて(笑)。鳥原先生に写真を並べたものを見せたら「いいんじゃない」って。もう一人の先生は「めっちゃ楽しみにしてるよ」と言ってくれて。その二人の言葉で、ちょっと安心しました。